「目標が見つからないんです」
元選手は1軍での実績がほとんどないまま、引退を決意したばかりだった。20代後半。働く意欲は強かったが「野球しかやってこなかったので、何をやりたいのかわからない」と吐露した。
アドバイザーは答えを用意しない。2度目の面談で「キャリアの棚卸し」と呼ばれる作業に入る。「ただ野球だけやってきたのではないのでは?」と問いかけた。
「そういえば、自分はファンを大切にしてきた」「相手のデータ分析が得意だった」「一つのことを貫いてきた」。元選手は、投げて打つだけが野球人生ではなかったことを発見した。
3度目。関心のあるキーワードを一緒に探る。「『家』に興味がある」と元選手は言った。目指す業種は絞れた。ここまでに2カ月かかった。
一般の転職相談なら、1度の面談で業種も探れる。「クビを言い渡されたスポーツ選手は、それ一本で頑張ってきた分、へこみ方が深い。自分で折り合いをつけるまで時間がかかる」と坂田さんは言う。
社会人野球のNTT四国で内野手だった坂田さん自身がそうだった。午前に仕事、午後に練習の生活。ある朝、「今日から練習に来なくていい」と通告された。24歳だった。その日は机の前で、ただ座っていた。
その後、インターネット回線の営業についたが、戸惑いの連続だった。営業ノウハウの有無の問題ではない。何のために売っているのか、が見つけられなかった。
いくつかの職場を経て、昨年リクルートエージェントに入社した。目標をつかみあぐねる引退選手たちと労苦を共有しながら、自分探しの旅にじっくり同伴する。
元選手との4度目の面談では、面接の練習をした。腹をくくった元選手からは推進力を感じた。
この4月、元選手は都内の不動産会社に就職した。最近、坂田さんは電話で話した。「いやあ、コピー機の使い方を覚えるのも大変なんですよ」という声が弾んでいた。
PR