毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。
転職では、面接官は面接を通じてさまざまな角度から転職候補者を見ています。スキルはもちろんのこと、コミュニケーション力やリーダーシップ力など、職務経歴書では見えない内容を、会話のやりとりから感じ取っているのです。決断力もその1つです。
■もっと上流工程の仕事がしたい
以前にあったケースを、今回ご紹介したいと思います。
A さんは27歳、2次請けを中心とした受託開発のシステムインテグレータ(SIer)でシステムエンジニア(SE)として従事していました。しかし、もっと上流工程の仕事がしたいと自分から積極的にお客さまと話す機会を持つなどして努力していました。しかし、会社の組織としての限界を感じ、ITコンサルティング会社への転職を希望して転職活動をスタートしました。
ある日、B社からAさんにぜひお会いしたいとの連絡がきました。B社はクライアントにかなり入り込み、システムだけではなく経営戦略・事業戦略といった領域から幅広く実行支援まで行うことが特徴の会社です。Aさんにとってはチャレンジングな環境ですが、Aさんの志向にも合致しており、このチャンスに気合を入れて面接に臨むことになりました。
順調に選考プロセスをこなし、B社から最終面接の連絡がきました。Aさんもその「朗報」にもちろん喜んでいましたが、話をしているとAさんから少し不安な言葉が漏れました……。「1点気になっているのですが、とてもハードな職場のようですね。プロジェクトの状況では家に帰れない日も多々あるようで。現職も忙しいのですが、それ以上かもしれないです」
■Aさんの迷い
コンサルティングという仕事柄、確かにハードな仕事かもしれません。B社も、Aさんのポテンシャルを評価されていますが、チャレンジが必要な転職ということもあり、あえてその点を強調し、Aさんが十分納得されたうえで決めていただきたかったようです。
「これまでの面接では、何とお答えしたのですか?」
「一応、十分納得したうえで転職したい旨は伝えました。でも、いろいろ考えると……」
確かに悩まれるのもよく分かります。あとは希望の仕事をするためのリスクをどれだけのリスクととらえ、覚悟ができるかです。今後のキャリアプランを考えたときに、いまの年齢、この時期に何をすべきか。最終面接までまだ1週間あったので、じっくり考えて、どちらにせよ当日までにお気持ちを決めていただくようお願いして電話を切りました。
そして最終面接が終了し、Aさんから連絡がありました。
面接は無事に終了しました。B社のことや仕事内容はとても興味深いです。仕事のハードさは理解はしているんですが……。どうしてもまだ気持ちが固まりません」
面接ではB社から「本気で、当社でコンサルタントとしてイチからやる気があるのであれば、しっかり育てていくよ」とはっきりいっていただいたようです。
しかし、現実的に考えれば考えるほど慎重になってしまい、その場ではあいまいな返答しかできなかったとのことです。
■タイミングを逸したAさん
翌日、B社から連絡がありました。
「Aさんの件ですが、今回は見送らせてください」
理由を確認すると……。「決断力がないと弊社でやっていくのは難しいですよ」
面接を通じてポテンシャルは高く評価されていました。これまでも問題意識を持って仕事に取り組んでいましたし、磨けば光る人材で、鍛えることによって活躍していただけるイメージも持っていたようです。
「新しい仕事にチャレンジするので不安な点があるのは分かりますが、これまで何度かお会いして、前回の面接からも1週間以上あったのに転職するか否かを決断できないのでは、正直、弊社でやっていくのは無理ですね」
コンサルタントという仕事は、経営者をはじめお客さまと向き合わないとやっていけない仕事です。自分のことも決断できないのであれば、ビジネスにおいても難しいと判断されたようです。
同じ日にAさんから、あらためてB社で本気で取り組みたい旨の連絡がありました。しかしながら、時はすでに遅し。B社の決定は覆りませんでした。
Aさんのケースはあくまでも一例ですが、企業側はさまざまなシーンで決断や意思決定の仕方を見て、本気度や、ビジネスにおける決断力を推し量っているのです。また、面接の場面以外でも、企業は転職プロセス全体を通じて決断力をチェックしているのです。
■意思決定をこなし、決断できるか
例えば面接の日程調整。上で取り上げたAさんとは別の方ですが、書類選考に合格したのですが、面接の日程調整ができずNGになってしまったケースもありました。確かにプロジェクトで客先に常駐したりと忙しかったようですが、その間の状況報告もあいまいで企業も困惑していました。
企業も選考を進めてもどうなるか分からず、半ばあきれてNGの結論を出したのだと思います。しかし、実のところは物事を決めることができない人だという判断をしたようです。
業務が忙しいことは分かりますが、スケジュール1つ調整できなければ、入社後も業務で発生する調整ごとに対応ができないのではないかと取られてしまいます。物事を調整するということは、何かを決めていくということです。しかし、自分のことも決めることができないようだと……、と企業は考えます。
内定後の意思決定場面。ここも決断を要求される場面です。企業はもちろん採用したくてオファーを出しておりますが、その後の対応によっては内定が取り消される可能性もあるのです。プロポーズはしたけど、その後の反応・対応で気持ちが変わってしまうこともあります。
転職活動で、数社並行して進めていたものの、ある企業から先に内定が出た際に決断ができず、回答のタイミングを誤ってせっかくの内定が無効になったり、逆に転職希望者に対する会社側の印象が悪くなったりすることが結構あるのです。
他社との兼ね合いなどさまざまな事情があることや、比較して決めたいというお気持ちはもちろん理解できます。ただ、新卒のときのように内定を複数もらってから、後でゆっくりと考えることが難しいのが中途採用なのです。
■タイミングよく決断すべし
そういう状況で、煮え切らない態度を取ってしまうと、この人は決断ができない人だという見方をされ、入社しても仕事を進めていく中でも決断できないのではないかと判断されてしまうわけです。
繰り返しになりますが、企業は転職候補者が決断できるか否かをじっくりと見ているのです。しっかりと意思決定や調整など決断ができると企業に判断されればプラスの評価、好印象を与えます。決断できないのであれば、その理由をしっかり説明することにより、マイナスの評価を避けることもできるのです。
仕事も転職活動も、決断や意思決定の連続です。その都度しっかりと考えをまとめ、しかるべきタイミングで結論を出すことが大切です。あいまいに先送りすると、仕事においても決断ができない人と判断されてしまうのです。
転職は、しかるべきタイミングで意思決定をし、決断すべし。
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